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私のマーヨンなご近所、水野 [セブ島通信3月号]

私のマーヨンなご近所、水野 [セブ島通信3月号]

私は寒いのが嫌いだ。フィリピンに移住したのだって、日本の冬が本当に嫌だったからだ。一年中Tシャツで過ごせる、なんて夢のようだと思った。足元もしかり。日本で社会人をやっていた時には、ヒールのあるパンプスが半ばユニフォームであったが、こちらに来てからはサンダルだ。それもサニラスと呼ばれるビーサン(ビーチサンダル)。

他人にはわからないと思うが、私なりに一応このサニラスも普段のものとお出かけ用と使い分けている。通勤もサニラス。通勤途中のセブのOLさんは、いかにもオフィスレディという格好をしているが、足元をみれば、サニラス。中にはストッキングにサニラスというツワモノもいらっしゃる。当然、オフィスに着けばそれなりの履物に履き替えるのだろうが、こういうちぐはぐなスタイルは、朝のモルティカブやジプニーの中では珍しくない。

しかし、モルティカブやジプニーの中では、足を踏まれる確率はとても高いので気をつけなくてはならない。モルティカブは特に小さいので他の乗客の乗り降りの際に、かかとを上げてつま先を引っ込めないと思い切り踏まれる。そもそも人の足を踏まないように、なんて考えている乗客はほとんどおらず、踏んだところで謝りもしない人しかモルティカブには乗っていない。「アガイ(痛い)!」とわざとらしく叫んだところで、そんなところに足をおいておくお前が悪い、くらいの感じで睨まれるか、あら、ごめんなさい、と全くそう思っていないでしょ、と突っ込みたくなるような謝罪しか返ってこない。

サニラスで足を踏まれるのは痛い。それに雨の日はペラペラのサニラスでは足が濡れてしまう。そこで通勤には、工業団地労働者御用達の雑貨店で値切って買った厚底サニラスを履いている。これなら多少の水たまりでも入っていけるし、ペラペラのサニラスより踏まれる確率も低くなる。

先日、いつものように仕事に行くためにモルティカブに乗り、目的地で降りたのだが、降りた瞬間、足に激痛が走った。え?何?と、足元を見たら、なんと竹串が足に刺さっていた。足を思い切り振って竹串をふるい落とそうとしたが取れない。完全にパニックになったが、誰も助けてくれない。すぐ横には若いカップルがいた。朝から女性が男性にしなだれかかって二人の世界に入っていて、ケンケンしながら竹串を振り払おうとしているオバチャンなんて目に入っていないようだ。落ち着け、落ち着け、と自分で言い聞かせ、カップルの横の壁に寄りかかり、足元をよく見ると、竹串が私の左足の裏の皮に平行に突き刺さっていた。これではいくら振り払おうとしたところで無理だ。仕方がないので、戦国時代の武士みたいに、自分で竹串を思い切り引き抜き、投げ捨てる。すぐに持っていたアルコールをふりかける。叫びたいほどにしみるが我慢する。職場まで歩いて5分程度だ。びっこを引きながら歩く。

何とか職場まで行き、座ってよくよく見れば、幸い傷はそんなに深くはなかった。もう一度アルコールで消毒し、事務所にあった赤チンを塗った。

夕方になる頃、傷がズキンズキンと痛みだした。同僚が破傷風など心配があるので、注射を打った方がいいと言い出した。そういえば、近所のおじさんが最近、足の裏に釘が刺さり、入院したという話を聞いたばかりだ。このおじさんに限らず、足の裏に何かが刺さる、というのは、割と頻繁に聞く話で、それは結構大事になる。

ここで躊躇したことで命を落としかねない事態になったらどうしよう、とか、大事になってから病院に行くほうが出費がかさむかもしれないと思わなかったわけではなかったが、帰宅し、もう一度アルコールでよく消毒し、日本から持ってきた傷によく効くという薬を塗ったら、翌朝には痛みもなくなっていた。安心すると同時に、近所の人たちは、きちんと消毒もせず、適切な処置をしないから重症化するのだろうと思った。

それにしても履き古したペラペラのサニラスならともかく、厚底サニラスなのに、竹串が刺さるとは。それも街の中で。息子には「ちゃんと足元を見て歩かないとだめだよ。」とたしなめられたが、確かに街の中とはいえ、犬などの排泄物を含めかなり危険なものは落ちている。サニラスはやはりリスクがあると思わざるを得ない。

なので、通勤には靴を履くことにした。しかしここしばらく靴なんて日常的に履いていなかったので、靴を履くことで足が圧迫されるような違和感が半端ない。しかもまともな靴が家になかった。何年か前に買ったスニーカーを出すと、数回しか履いていないのに、靴底がパックリを剥がれていた。仕方がないので息子が小学生の頃に履いていた日本で購入した運動靴を履くことにしたが、今更ながら靴とは足を守るものであったと実感する。

こうして私は久しぶりに靴を履いて出勤している。会社までの道すがら、ビルの建設現場を通りがかり、ふと見ると、作業員が砂の山に登って大きなスコップを持って作業をしている。全員、サニラスだった。工事現場でサニラス。最強すぎる。