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私のマーヨンなご近所 [セブ島通信9月号]

私のマーヨンなご近所 [セブ島通信9月号]

ある晩のこと。夕飯を食べ終え、テレビをまったり観ていたが、そろそろ眠くなってきたので寝ようかな、なんてことを考えていたが、そういえば朝から姑の姿を見ていないと気付く。

姑と同居を始めてから何年になるだろうか。夫と結婚した当初は、姑は夫の父親ではない男性と別のところで暮らしていた。子供が生まれてからは、子守をするために毎日、通って来てくれていた。同居する男性が亡くなり、我が家に同居することになったが、どこで何をしているのかよくはわからないが、夜明け頃に家を出て、日が暮れてから帰る生活をしており、あまり家にはいないようだった。が、コロナ禍でウロウロできなくなった。それでも家の中にいるより外にいる時間の方が長く、テラスで我が家の番犬と共に日がな一日を過ごしていた。

姑の年齢は正確にはわからない。誰に聞いても正確な年齢はわからない。本人は出会った頃から一貫して60才と答える。すでに20年以上経っているけど。推定70才と見ているが、このあたりではかなり元気だと思う。しかしやはり高齢ということで、もしコロナに感染したら、と心配をしている。

なので、家にいるようにと言い続けていた。最初はおとなしく従っていたが、GCQになったあたりから、目をはなすとまたすぐにフラフラとどこぞに行ってしまうようになった。しかもマスクは常にあごに下げているし、外から帰ってきたら手を石鹸で洗え、と言えば、アルコールをつけたから大丈夫と自信満々だし、まさに大統領も嘆く「頑固者」なのだ。

いろいろ考えれば不安だらけだが、なるべく深く考えないようにして、どうせ人間はいつかは死ぬわけだから、と腹をくくったのか、もうめんどくさいから諦めちゃったのか自分でもわからないけど、そんな姑にはもうヤイノヤイノ言わずに放っておいたのだが、こんな時間まで帰ってこないのは、今までなかったので息子たちに聞くと、「ああ、ロラ(おばあちゃん)は、今日は帰ってこないって。」と、どうということはないように言うから驚いた。

「何で?」「具合が悪いって。」「は~?」いよいよコロナか?いやいや、具合が悪いのにどこに泊まる?と、私はかなり焦ったが、息子たちは「え~?知らない」と、スマホのゲームをやりながら、顔も上げずに言う。

翌朝、姑がいるであろう奥の集落の夫の弟のところに様子を見に行くと、のんきに朝ごはんを食べていた。「大丈夫?」と、聞けば、照れくさそうに笑って、「昨日は、めまいがしてフラフラするから帰れなかった。」と言う。「病院に行く?」と聞けば、「いや、もう治ったから大丈夫。」と言うので帰ってきた。

なので夜は当然、帰ってくるものと思ったのだが、その晩も帰ってこなかった。すると息子が「ロラはもうここには戻ってこないって。」と思い出したように告げる。驚いて「何で?」と聞けば、さぁ?と肩をすくめる。

私の周りのフィリピン人の多くが、問題が発生すると、自分はまったく関わりはありませんよ、と白々しく振る舞う。どうせ後でバレるのに。フィリピンで生まれ育ったこの息子の態度を見る限り、姑が帰って来ないのは、具合が悪いわけではなく、姑は何かが気に入らなくて、ここに帰ってこないのだろう、と推測する。当然、息子たちはその理由を知ってはいるが、私に言うとめんどくさいことになるだろうから、知らないと言っておこう、というところだ。すると原因は私か?と、考えるがまったく身に覚えがない。だってほとんど顔も見ていないんだから。

翌日になり、姑の弟である隣の叔父さんが、「あいつ、帰ってこないの?」と聞いてきた。「うん。何でか知ってる?」と聞けば、「だって年寄りなのにそのへんをマスクもしないでウロウロして、最近じゃ変な咳もしてるから、ウロウロしないか、こっちに帰ってくるなって言ってやった。」と、言う。

そして、自分は正しいでしょ?と私に同意を求める。こういうときには、否定も肯定もしてはいけない。ただ、あいまいに薄ら笑みを浮かべやりすごす。なんだ、叔父さんとケンカして出ていったのね。ならばそう言えば余計な心配をしなくてもよかったのに。

それからしばらく姑は帰ってこなかった。まぁ、何かあれば向こうから言ってくるだろうと私も放っておいた。息子たちは「向こうの方がたくさん人がいて楽しいって言ってた。」などと余計な情報をわざわざ入れてきたが、いちいち反応はせず聞き流す。

そして2週間くらい経った頃、朝、起きて、玄関を開けると、姑がニコニコしながら立っていた。「もうすっかり具合もよくなったから戻ってきた。」と、私には言ったが、おそらく向こうの誰かと揉めて、居づらくなって戻ってきたのだと思う。

そして夜明けと共に表に出て、所在なさげに家の前に座っている。テラスに姑が横になれるような竹のベッドでも買うことにしよう。