私のマーヨンなご近所[セブ島通信7月号]
ここ何年か時々、トイレが流れないことがある。明らかに何かがつまっていて、ラバーカップでスッポンスッポンとやって直していたのだが、先日ついに逆流してきて大騒ぎになった。
逆流といっても、トイレからでなく、便器の下の部分からである。そういえばここには便器を固定するねじのようなものがあったような気もするが、いつの間にかなくなって穴が開いていて、そこから逆流してくるのだ。
以前にもここでネタにしたが、我が家のトイレは浸透式で、大きな穴を掘り、そこに貯めている。今から20年以上前の話で、生まれた時から水洗トイレだった私はかなり衝撃的だった。汲み取り式でもないと夫は説明し、穴がいっぱいになったらどうするのか?と聞けば、私たちが生きている間は心配ない、と言っていた。
しかし、今回のトイレの不調を伝えると、驚くことに「穴がいっぱいになったからだ。」と、何でもないように言った。まさか私があれから20年も生きるとは思ってはいなかったということか?
しかし、トイレだけではなく、生活排水も同じ穴に流すようになっていたように記憶している私は、風呂場の排水溝は逆流してこないのがおかしいと訴えた。もし本当に穴が満杯になっているのであれば、排水溝からも逆流してくるはずではないのか?と、投げかけても誰も取り合ってくれなかった。
納得のいかない私は、とりあえず逆流してくるねじのあったであろう小さな穴を埋めてみろと息子に言いつけたら、その辺にあったビーサンをカッターで切り取り埋めてくれた。すると逆流は止まったが、すっきりは流れない。何度も何度も手桶で流し、ようやく流れるという感じ。
再度、ラバーカップでカッポンカッポンしてみたり、排水が詰まりがちになった時に使うドクロマークのついた液体を入れてみたりしたがだめだった。そしてあくまでも穴が満杯になっていると主張する親戚連中がバキュームカーを手配してくれたのだが、これもなかなか来ず、そんなことをしている間に気が付いたらトイレはすっきり流れるようになっていた。
しかしそれからしばらく経ったある日、いきなりバキュームカーはやってきた。仕事中に電話がかかってきて、今から汲み取るから家の一部を壊すと言うから驚いた。私の記憶では穴は家の外にある。なぜ家の中を壊すのかと聞けば、排泄の穴は家の中にあると家を建ててくれた親戚の大工の叔父さんは言い張る。そして私の許可が出ればすぐに作業を始めると急かす。
どうしても家の中に穴があるという叔父さんの主張に納得いかない私は、とりあえずもう少し考えるから、バキュームカーにはガソリン代としていくらかを近所の親戚に立て替えてもらい渡し、その日はお引き取り頂いた。
帰宅し叔父さんの話をじっくり聞いた。あくまでも家の中に穴があるという前提で話をしている叔父さんの提示する選択肢は二つ。家を少し壊し、バキュームカーで汲み上げる。恐らくポンプですんなりと汲み上げられない状態になっているであろうから、人が穴の中に入り手作業で行うためその分の追加料金がかかる。
そしてそれは数日かかるので、その間、家の中の穴は開いたままの状態で過ごさなくてはならない。もう一つは、新しい穴を掘り、古い穴には手を付けない。となれば、もうこれは実質一択ではないか。さっき、許可を出さなくて本当によかった。
翌日、叔父さんがすぐに穴を掘る職人を連れて来た。値段交渉を行い、早速穴を掘り始めた。するとすぐに以前の穴にぶち当たった。確かこの辺にあると私が記憶していた場所にやはりちゃんと穴はあった。
しかし3メートルくらいはありそうな穴の下の部分のせいぜい20センンチくらいのところが黒く変色しているだけで、20年分の排泄物が溜まっているようには見えない。
この穴を掘った記憶は鮮明にあるが家の中に掘った記憶はまったくない。何だか狐につままれたような気持ちになったが、すでに新しい穴は掘り進めている。この新しい穴に排水も排泄も両方貯めることになり、時々バキュームカーで汲み上げられるように蓋も作ってもらうことになっている。この期に及んではもうどちらでもいい。
穴は二週間ほどで掘りあがった。以前の穴にぶち当たったため、ものすごい大きな穴になり、今度こそ、私の生きている間に満杯になることはなさそうだ。
最終段階で大工の叔父さんがトイレのタイルをはがすと、確かに別の管があり、家の方へ延びていた。叔父さんの記憶が正しかったのだ。
新しい穴へと繋ぐ工事は半日で終わり、トイレのタイルは新しく繋いだ管に沿って全く別の色のタイルが貼られていた。
古い穴は本当は満杯になどなっていなかったのではないかと思わなくもないが、確かめるすべもなく古い穴はなかったこととして、このまま私たちは排泄物の上で暮らしていく。