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今日この頃の補習校、しっかりした光が見えてきた[セブ島通信5月号]

今日この頃の補習校、しっかりした光が見えてきた[セブ島通信5月号]

セブ日本人補習授業校  蝶谷正明

真っ暗な時化た大洋を手漕ぎのボートで漂流していた補習校です。「していた」と過去形で表しています。2020年3月、押し寄せるコロナの大波の前になす術もなく休校措置を取りました。

この一年ほど「前代未聞」「古今未曾有」という熟語をこれほど頻繁に使ったことはありませんでした。補習校38年の歴史、私の60余年の人生に於いて、前例を参考にする、誰かにアドバイスをお願いすることが出来ない真っ暗な一年でした。

当初は2、3ヶ月頭を下げていれば過ぎ去ってしまうものと勝手に憶測していましたが、早一年を超えてしまいました。令和2年度の卒業式も3年度の入学式も中止。まさに補習校史上前代未聞の出来事です。9年間補習校に通った最後の締めくくりが出来ませんでした。卒業証書は一枚の紙片です。

しかし、その紙には目には見えない9年間の想い出や出来事が克明に記されています。哀しさと情け無さに関係者は打ちのめされました。3ヶ月が5ヶ月になった頃、子供たちから教育の機会を奪ってはならないという声が挙がってきました。

子供たちの外出も対面授業も禁止されている中で出来るのはオンラインです。セブはオンライン英語のメッカである事に気が付きました。まさに灯台下暗しです。

私立学校やインター校では既にオンライン授業が始まっていました。とはいえ、補習校にとっても講師にとってもオンライン授業は全く未経験です。実際に授業が成立するのかという不安、ネット環境に対する不信が重くのしかかってきました。誰もが試行錯誤でした。

9月から希望者限定で開始しましたが、小さなトラブルはありましたが、結果的には案ずるより産むがやすしでした。コロナ禍にあって当然のことながらお子さんの安全と教育環境の観点などから帰国した家庭も多く、昨年3月46名であった在籍者中、オンライン授業に参加したのは15名でした。

蓋を開ける前には10名集まるだろうか、最悪の場合には補習校の存続にも関わってくるという真っ暗な不安に苛まれました。しかし、15名が手を挙げました。そして出席率が改善される、送迎の負担が無くなるといったポジティブな要素も認められ、講師も子供たちも保護者もこの新しい授業形態に馴染んでいきました。

本年3月27日にはオンラインで卒業式を挙行。小学部3名と中学部3名が無事に巣立って行きました。例年通り総領事館、商工会、日本人会のご来賓からお祝辞をいただきました。4月10日の入学式には4名の新入生が揃いました。参加者の誰にも「前代未聞」のセレモニーです。

卒業証書を読み上げても直接手渡すことは叶いません。しかし、お互いが何かを感じることは出来たのではないでしょうか。新しい時代の新しい様式でのセレモニー、来年になれば少なくとも子供たちには当たり前、自然なものと受け止められるのだと思います。令和3年度の新学期は20名でスタートしました。

冒頭に「漂流していた」と過去形で記しましたが、15名から20名に生徒は増えました。しかも、日本、マニラ、ドマゲッティ在住の生徒がいるのです。これまでであれば通学時間が制約になり断念していた子供たちが毎年いました。家庭の事情で遠方に引っ越しても補習校で学びたい生徒がいました。

オンラインはややもすれば対面のオフライン授業に比べてレベルや格が下がるという認識がまだまだあります。

しかし、一人でも多くの子供たちが学習の機会を得られる点を考えれば、革命的な学習形態であり教育の普遍性を考えればある意味、理想的なのではないかとすら感じています。生徒数の減少は補習校の経営的には非常に厳しいものです。

しかし、窮状を見かねて校舎の大家さんからは家賃の減免の申し出をいただきました。

下記方面からの物心両面での支援のお話をいただいています。この子供たちのためにも、サポートをいただいている皆さんに報いるためにも補習校の灯は今後とも絶やしません。