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貧困層の今と未来 [セブ島通信5月号]

貧困層の今と未来 [セブ島通信5月号]

【DAREDEMO HEROとは】

NPO法人DAREDEMO HEROは、セブに住む小学生3年生から大学生まで48名の貧困層の子どもたちに対し、教育支援を行っている団体です。私たちのモットーは「誰でもヒーローになれる!」です。たとえ貧困層の家庭に生まれても、夢をもって努力をすれば、人のために役に立てる人材(ヒーロー)になれるということを、子どもたちに教えています。

具体的な支援内容は、毎日の昼食無料提供、放課後の学習支援、週末の特別教室、奨学金・学用品の支給、大学までの学費・交通費の支給など、子どもたちの教育環境を整えるための幅広い支援を行っています。さらに、緊急支援として、セブ市内または近郊で発生する大規模火災被災者支援、貧困地区の子どもたちに対する配食支援、緊急利用支援なども行っております。

【新型コロナウイルス感染症が貧困層にもたらす影響】

全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(以下covid-19)ですが、人体に与える症状そのものだけではなく、経済的にもたらす影響が大きな問題になっています。

現在セブはcovid-19の影響で、ロックダウン措置が取られています。これに伴い、多くの貧困層が職を失いました。フィリピンの貧困層の多くは、日本でいう「日雇い」のような雇用形態の元で仕事をしています。簡単に言ってしまえば、その日仕事がなければその日の収入がないということです。さらに、貧困層の多くがまさに「その日暮らし」で銀行口座はおろか、ほんの少しの貯えすら持っていません。

仕事がない→収入がない→その日生きるためのお金がない

この図式が、ほんの1日で完結してしまうのです。

【助け合い文化の限界】

フィリピン人は、普段から家族のつながりが非常に強く、さらに隣人同士での助け合いの文化が根付いています。そのため、どんなに大規模な災害などが起きても、餓死や孤独死はなかなか耳にすることはありません。隣人同士が助け合い、家族(日本でいう1世帯の家族ではなく親戚なども含めた大きな単位)の中で収入のある人が、そうでない人々を支えてきました。

しかし、今回のロックダウン措置を受け、この助け合い文化が継続できなくなっています。というのも、貧困地区のすべての人々が収入をなくし、自分たちが生きることに精いっぱいの状況です。現在何とか収入を得ることができている中間層や販売業に従事している人々は、それ以外の多くの家族を支援しなければなりません。貧困層に続き、中間層の生活も危機にさらされ始めています。

【行政からの支援】

日本でも様々な行政支援が話題になっていますが、ここフィリピンでも行政からの支援が始まっています。ロックダウン措置がスタートして数日後には、貧困層に限らず、全世帯に対してお米や食材の支給が実施されました。

このお米の配布に関しては、当初発表された支給量と実際に配布された量が違っていたり、地区によって支給量が違っていたりと、様々な問題はありましたが、住民票や正確な住宅地図がない中で、バランガイワーカー(役場職員)やボランティアが一軒一軒訪問し、数十キロのお米を配布したということ自体、すごいことだと思います。

今後は、現金の支給など予定されていますが、なかなかスムーズに進んでいないのが現実です。

【見捨てられた!?貧困地区での集団感染】

セブ市の中心部、アヤラショッピングセンターやITパークのすぐ近くにあるバランガイLuzで大規模感染がおこりました。バランガイLuzは、周囲の開発に取り残された貧困住宅密集地です。DAREDEMO HEROでは、この地区に住む17名の子どもたちを支援しており、HERO’S HOUSE2というラーニングセンターも有しています。

このHERO’S HOUSE2から、ほんの数メートルの場所に位置するZapateraという地区で、問題の大規模感染がおこり、100名以上の感染者が発覚した4月12日にトータルロックダウン(完全隔離措置)、さらに同月16日にはこの地区での検査を中止してしましました。

これにより、Zapatera地区に住む人々は、周囲に100名以上の感染者がいることを知ったうえで、自分が感染したかどうかを確認することもできないまま、その地区から一歩も出ることができなくなってしまったのです。この地区に住む人々は、現在(5月1日)も見えない脅威に怯えながら、不自由な生活を強いられています。

【DAREDEMO HEROの支援活動】

当団体では、ロックダウン措置が開始されてすぐに、貧困層への支援活動をスタートしました。

・DAREDEMO HEROの奨学生に対する支援

当団体で支援する子どもたちの保護者は、今回のロックダウン措置の影響で全員が職を失いました。同時に収入も失い、日々の生活が非常に困難な状況に陥ってしまいました。そんな子どもたちとその家族を守るべく、生きるために必要な最低限の食材の提供、さらに現金での支援をスタートしました。また、子どもたちは学校が休校となり、学びの機会を失っています。子どもたちが、家でもしっかりと学習ができるように、学習用タブレットの貸し出し、宿題や課題の提供を続けています。

・貧困地区への支援

当団体では、これまでにもゴミ山や墓地に住む人々、さらに市内に点在する多くの貧困地区の支援を行ってきました。その日食べるものものない、貧困地区の人々に対して、定期的に缶詰やインスタントラーメン、お米の支給などを行っています。さらに感染予防のためのアルコールや石鹸の支給も同時に行っています。

・完全隔離地区Zapateraへの支援

この地区には、当団体で支援する子どもたちが住んでいます。彼らを感染から守るためには、この地域全体への支援が必要です。これまでに、多くの方々方ご支援を頂き、この地区に住む800世帯の人々に対して様々な支援を行ってきました。この地区はニュースで取り上げられたこともあり、多くの支援物資が集まっています。しかしそれらには偏りがあり、多くがお米と缶詰です。

「お米があっても調理するためのガスがない」

「フルーツや野菜を一切口にしていない」

「缶詰に味のバリエーションをつけるために調味料がほしい」

「赤ちゃんのオムツがない」

そんな住民の生の声に耳を傾け、今本当に必要とされているものを、確実に必要としている人々の手元に届けています。

さらに、この地区を守る警察や軍の人々、医療従事者や食料配布係の人々は、常に感染の危険にさらされながら、最前線で活動を続けています。そんな彼らの安全を守るため、彼らに対して防護服やマスク、長靴などの支給を続けています。

【貧困層の未来】

この事態は必ずいつか収束を向かえます。しかし、それまでにどれだけの時間がかかるのか、現時点で誰にもわかりません。セブの感染状況は、まだまだ収束に向かっているとは言えない状況です。ロックダウン措置が続く限り、貧困層に限らずセブに住む人々の生活が改善されることはなく、日々悪化の一途をたどっていきます。

このような状況の中でも、貧困層は明るくたくましく生きています。本来であれば、悲観的になってしまうこの現状ですら、笑顔で乗り越えようとするフィリピン人から、私自身毎日パワーをもらっています。

「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」

まさにこの言葉の通り、貧困層はモノだけではなく、生きるパワーまでも分け合って生きています。当団体でできることは非常に限られてます。しかし、たくさんのパワーを私たちに分け与えてくれるフィリピン人に、私たちが分け与えられるものをできる限り分け与え続けていきます。

貧富の差、国籍、信仰、性別、様々なことを飛び越え、この苦境をみんなで乗り越えることができたとき、世界がこれまで以上に素敵な場所に生まれ変わると信じて、今自分にできることを行動に移していきます。

これ以上の感染者が出ないこと、2次的な被害者が出ないことを心から祈っています。