セブ島通信 Vol.171 2019年07月号へ戻る

セブのご飯

蝶谷正明

フルーツ 日本人に最も馴染みのあるお経は何でしょうか? 意味がわかるか否かは別ですが、おそらく「ハンニャ ハラミタ……」の般若心経ではないでしょうか? 大乗仏教のお経として6世紀頃にインドで作られた と言います。ということはもちろんお釈迦様作ではあ りません。 この中の「波羅蜜 ハラミツ」とは古代インドの言 葉サンスクリット(梵語)で最高とか完璧と言った意 味だそうです。 平家ゆかりの寺、京都の六波羅蜜寺もこれに因んで います。 さて、古代インド以来東南アジアや南アジアで最高 のフルーツとして珍重されてきたものにパラミツがあ ります。 今日、異説もあるのでしょうがフルーツの王様はド リアン、女王はマンゴスチンというのが相場です。 しかし、古代においてはパラミツでした。実はこの パラミツは我々の住むセブでも非常にお馴染みです。 スーパーでも未熟、完熟のパックが売っていますが、 時季になると道端で軽トラや手押し車に積んで大きな 実を切り売りしています。ジャックフルーツです。 初めて見た人には何がなんだかよく分からない物体 です。ちょっと形の悪い米俵のような姿とひと抱えも ある大きさ、黄緑の表面はゴツゴツしています。木の 幹から直接こんな異様な物が幾つもぶら下がっている のも、また不思議な眺めです。鳥や虫の害を防ぐため 米袋などで覆っています。割ってみると巨大なミカン の房のようなものが放射状に詰まっています。未熟な 時には野菜として煮たり炒めたりしますが、私の好物 はスリランカ風のカレーです。房の中には大きめの チョコボールのような種があるので取り出します。煮 たり炒めたりします。食感はちょっと例えようもあり ませんが、敢えてこじつければタケノ?? 自己主張の ない、いたって淡白な味ですから、好みの味付けが出 来ます。種は薄皮を剥いで茹でるとちょうど栗のよう な風味です。完熟するとちょっと毒々しいまでの山吹 色になります。ベトベトして一種独特な臭いを放ち、 味はマンゴーをもっと濃厚にして甘みを少し抑えたよ うなこれも独特です。好き嫌いははっきり分かれるよ うですね。私は大好物で、食べ始めると止まりません。 戦前、日本人は東南アジアはバナナ、マンゴー、パ パイヤなどフルーツの宝庫で、ジャングルも芳香を放 つフルーツで満たされている錯覚を抱いていました。 これは戦前の漫画「冒険ダン吉」の世界です。現実的 にはこれらは全て栽培植物です。人が植え、手入れを するから実を結びます。例外はあってもジャングルに 自生はしていません。食料弾薬等の補給が弱点だった 日本軍は、余裕のある時には米を将兵に支給出来まし たが、輸送手段が無くなると現地自活、即ち自分で調 達せよとなります。軍の上層部もジャングルのフルー ツを食べれば飢える心配はないという漫画と現実が ごっちゃになった認識です。敗走する将兵の前にはパ パイヤもパイナップルも、バナナもありません。こん な初歩的な錯誤がどれだけ多くの生命を奪い、山野に 屍をさらす悲劇を招いたことか。

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